
東京オリンピック・パラリンピックの選手村跡地の再開発事業として企画されたものの、相場より極端に安い価格で販売されたことから、転売目的での業者などの大量購入が問題になった晴海フラッグ。一部活動家などによるデモが行われるなど政治ネタにまで発展し、一時期は騒動が起きたこともある。特集『それでも買う!狂乱の市場に克つ! マンション 最強の売買&管理術』(全33回)の#21では、町開きから1年余りが経過した今の実情を住民が明かしてくれた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
オリンピック延期とコロナと転売ヤーに翻弄された
晴海フラッグの本当の姿とは
春の日曜日の午後の晴海ふ頭公園は暑いほどの陽気だった。2023年の冬、分譲棟引き渡しを前にメディア向けの内覧会で訪問して以来、町開き後としては初めて晴海フラッグを訪れた。
隣接する晴海ふ頭公園は船を模した巨大遊具に長蛇の列ができ、小さな子どもが歓声を上げてスライダーを何度も滑り下りるのを、母親や父親が近くから眺めている。グループで遊びに来ている親子も多い。海沿いの芝生公園では小学生が走り回り、オリンピックモニュメントである「TOKYO」の文字に登って遊んでいた。もう夕方になろうかという時間だったが、何かイベントがあったわけでもないのに公園には100人以上の人がいた。
町開き前はほぼ無人で工事車両が行き交うのみだったエリア一帯には人があふれており、まったく印象が変わっていた。晴海埠頭の向こうに東京湾と船、対岸のビル群が広がる典型的な「東京湾岸」の風景に、よくあるファミリー向けの住宅街が溶け込む。驚くほど子どもの数が多く、湾岸はファミリーの町だと改めて感じる。
晴海フラッグはここ数年東京湾岸に新しく開発されたマンション群の中で、毀誉褒貶が最も激しいマンションといって間違いない。
東京オリンピック・パラリンピックの選手村跡地の再開発計画が動き始めたのはちょうど10年前の15年だった。道路等の基盤整備を都が、住宅・商業施設の建物は都に代わって民間資金で建設する制度が適用され、三井不動産レジデンシャルを筆頭に三菱地所レジデンス、野村不動産、住友不動産、住友商事、東急不動産、東京建物、NTT都市開発、日鉄興和不動産、大和ハウス工業と、大手マンションデベロッパーのほぼ全社ともいえる11社が参加した。
17年に着工、19年に選手村として完成。その後東京オリンピックが新型コロナウイルスの感染拡大で20年から21年に延期となり、23年の予定だった晴海フラッグの引き渡し予定も1年延びた。
当時は最寄り駅から遠くマンション立地としての競争力がないと思われていたこと、さらに都の事業でもあるためデベロッパーは用地を格安で仕入れられていたことなどもあり、湾岸の周辺相場と比べてもかなり格安の値段で売り出された。だが、販売が1年延び湾岸タワマンとマンション相場を取り巻く環境は全て変わってしまっていた。
これがさまざまな騒動を巻き起こした。最後に整備され今年引き渡しとなるタワー棟の最高抽選倍率は640倍にも達したという。オリンピックの延期や開催そのものの是非を巡る議論や騒動と、東京都知事選挙など政治的な思惑にもさらされ続けた。安値での土地売却や入居時期の遅れを巡る訴訟も起き、さらに投資目的での購入が大量に発生しており必要な実需の顧客に届かない、とした批判も起きた。「人が住んでいないため夜間に部屋に明かりがともらずゴーストタウン化している」という報道もあった。都の対応を批判する活動家によるデモが現地で行われる騒動まであったほどだ。
さまざまな形でメディアやSNSをにぎわせてきた晴海フラッグでの暮らしの実際はどうなっているのだろうか。町開きから1年余りが経過した今の実情を、町を案内しながら住民が語ってくれた。