今求められるのは「おにぎり2つ買えば1つ無料」?
鈴木氏は常に「顧客の立場」に立つことの重要性を説いていた。
《新しいサービスを考えるときにも、「どう発想するのか」とよく聞かれますが、これも、何か特別なことを考えているわけではありません。「こういうものがあれば便利だな」という思い付きでやっているんです。(中略)便利なものであれば、あったほうがいい。まったく難しい話ではありませんよね》
(『トップの意思決定 日本のビジネス界を牽引する15人に聞く』イースト・プレス、齊木由香著)
今の時代にとって「便利なもの」とは何か。高騰するお米に対し、価格面での負担を直接的に軽減する手立てではないか。
鈴木敏文氏の考えに従えば、例えば「ごはんが安く手に入る」と言った方向性が顧客の心をつかむであろう。
例えば、おにぎりの最低価格商品が1個140円と仮定して、期間限定でおにぎり・お弁当・白米パック商品のうち1点を140円引きにする『セブンのごはん無料キャンペーン』やってみてはどうか。
名目上は「無料」と打ち出しつつも、セブンにとっては、ただの140円引きセールであるというのが肝だろう。調べた限りでは、この半年間で、セブンにおいて、10円引きや一部に増量セール、値段据え置きという企業努力はあったが、大きく「おにぎりが無料になる」と打ち出したキャンペーンはなかった。
もちろん、140円であっても粗利を圧迫するのでは?という懸念はある。だが、現実にはドリンク1本無料クーポンなどと比べて、売り上げ的に大きな差があるわけではない。
この構造を理解すれば、話は単純である。「おにぎりを2つ買えば1つ無料」といったキャンペーンは、利益の目減りを一時的に受け入れるかわりに、売り上げと滞留時間を伸ばす起爆剤となりうる。鈴木氏ならば、短期的な粗利の圧迫に一喜一憂することはないはずだ。
むしろ、キャンペーンによって来店頻度を上げ、「また来たい」「買ってよかった」という感情を持たせることで、長期的な顧客接点の増加を重視する。その感覚は、前掲書にある鈴木氏の言葉にも表れている。
《自分が不便だと思ったことは、ほかの人だって不便と感じるわけです。一つずつ「こうしたら便利だろう」と考えてやっていれば、自分が思ったほどではないにしても、いまよりは便利になるはずです》(同書)
目先の原価や値引率よりも、「いま、何に困っているか」を捉え、「こうあったら便利だ」という感覚を、商品と価格で具体化すること。それこそが、セブンの創業者・鈴木敏文氏が最も得意とした「発想のジャンプ」だった。
増量でもクーポンでもない、コメの高値という本丸に挑む企画こそ、今求められている「次のセブン」ではないのだろうか。