【世界史ミステリー】満洲と清の「意外な共通点」、王朝の命運を決めた漢字の話
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

満洲や清に込められた思いとは?
17世紀初頭に、中国東北部に割拠した女真人が再び台頭を始めます。女真人といえば、12世紀に金という国を建国し、北宋から華北を奪った民族です。
その女真人がヌルハチ(在位1616~1626)という首長によって統一され、金(後金)という国が建国されます。ヌルハチはまた自身の国を「満洲(マンジュ)」と呼び、これ以降に女真人は現在まで満洲人と呼ばれるようになります。
ところで、この「満洲」という表記ですが、「満州」のほうが見慣れているという方も少なくないと思います。実際は、「洲」という州に「さんずい」が付いたほうが正式な名称なのですが、これにはある理由があります。
●「満洲」が2文字とも「さんずい」が付いている理由は何か?
この問いについては、解答の前にまずは思想的な背景から。中国では古代より、五行説(五行思想)と呼ばれる自然哲学が信じられてきました。五行説とは、万物が木、火、土、金、水の5つの元素からなるというもので、中国では戦国時代に陰陽五行説として大成されます(日本ではこれに道教の要素が取り入れられ陰陽道や陰陽師に派生します)。
この5つの元素は、互いに相生(相手の元素を生み出す作用)や相克(相手の元素を滅ぼす作用)の関係にあり、満洲(後金ないし清)が戦った明は、名前から推測できるように「火徳」の王朝名であり、これと相克の関係にある「水徳」を強調するため、「満洲」や「清」といったように「さんずい」のついた名称が目立つというわけです。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』を一部抜粋・編集したものです)