
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第13回は、ユニクロや無印良品に共通するビジネスの「強み」を解説する。
目指すは「100億円」ブランド
Tシャツを軸としたアパレル事業を立ち上げるべく、主人公・花岡拳は、格闘技イベント「豪腕」の会場に向かう。そこで知己の豪腕代表・大田原幸三を通じ、グッズ販売を取り仕切る一ツ橋物産の井川泰子と出会うのだった。
会社に戻った花岡は、元ホームレス社員である日高功、大林隆二の2人と話し合う。イベントグッズは権利処理が複雑で、豪腕の場合は一ツ橋物産を通さないと販売ができない。そのため、利益の薄いビジネスに意味があるのかと2人は花岡に問う。だが花岡は、2人の意見を一蹴してこう言う。
「商売やるんならもっとでっかい夢持てよ」
Tシャツの縫製工場とプリント工場を買収したのは、自分たちで商品企画から生産、さらにはその先の販売までを一貫することが目的であり、いずれは年商100億円のブランドを築くのだと花岡は語る。
その夢を実現する第一歩として、豪腕だけではなく、ミュージシャンのツアーや各種スポーツイベントとの取引を続け、早急に業界内での確固たる地位を得ることが大事だと、自身の戦略を明かす。
そして花岡たちは大田原を通じて井川たちとの打ち合わせのアポイントを取る。以前はにべもなく取引を断られた花岡たちだったが、井川の強気な態度を逆手にとり、取引のための「一手」を打つのだった。
ユニクロ・無印の強みの源泉は?

花岡が「年商100億円ブランド」として語るのは、いわゆるSPAと呼ばれる小売のビジネスモデルに近い考え方だ。
SPAとは「Specialty store retailer of Private label Apparel」、つまり企画から生産・製造、販売までのバリューチェーンを自社で一気通貫したビジネスモデルのことを指す。SPA自体は、かつて米アパレルのGAPが提唱したものだそうだが、海外ではZARAやH&M、日本ではユニクロや「無印良品」の良品計画などが代表的だろう。
SPAモデルを構築できれば、各工程を内製化することにより、中間コストが削減できるほか、品質や価格の管理、顧客ニーズへの対応も柔軟になる。加えて一貫された世界観、ブランド構築にも有利だ。食品からアパレル、家電までの世界観が統一された無印良品などを思い浮かべると分かりやすいかもしれない。
しかしSPAは、膨大な初期投資や人員が必要になるほか、在庫リスクも大きい。そのため資金力や組織力が限定的な新興企業には難しいモデルだ。
ただし、一部のバリューチェーンを「SPA化」することで成長したD2C(Direct to Consumer、生産者が直接消費者に届けるモデル)の新興企業なども存在している。少し飛躍すると、小売業に参入するのであれば「どこまでを自分たちで握ることが最適なのか」を見据えて、戦略を立てることが重要だとも言える。
商談であえて井川を怒らせるような態度をとった花岡。取引を進めるため、今度はグッズ販売の内覧会に潜入する。

