いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

ずるい「今学期の目標」
小学生の頃、各自が書いた「今学期の目標」が教室に貼りだされていた。私の目標を見た同級生が「頭いいな!」と騒いだことがある。
私の目標は「やると決めたことは最後までやり通す」だった。同級生曰く、「やると決めなければ、何もやらなくていいじゃん!」
その通りだ。
私は、とくに何もやるべきことを決めていなかった。
今学期中に、「これは絶対やり通すぞ!」と意志が固まるようなことが起これば、そうしようと思っていたのだ。
しかし結局、学期を通してそのようなことは起こらなかった。宿題をする、お手伝いをするなど、先生や親に言われたことをただやっただけで終わった。
意志を貫く難しさ
「強い心で自分の意志を貫ける人」はかっこいいし憧れるのだが、どうもその素地が必要であるようだ。Aという物事について自分の意志を持つには、Aの知識が十分にあり、理性もしっかりしていて、自分で判断ができなければならない。
たとえばコロナ禍で、マスクやワクチンについて情報が錯綜する中、私は一般的な多数派の対応をとった。なかには自分の判断で意志を貫く人もいたが、相当な覚悟が必要だったと思う。いろいろと調べたり、思うところはあったりしたが、「意志」と言えるほどのものを持つのは簡単ではなかった。
進学、就職など進路にしても、その時期になったらなんとなく情報を集めて、周りと同じような行動をとってきた。勝手に「周囲の期待」を想定し、その範囲の中で考え、行動するようになっていたのかもしれない。
ストア哲学者のエピクテトスは、「自分の意志を貫く」ことについて、次のように語っている。
意志を貫く
自ら欲して目的を成し遂げ、嫌悪するものには巻き込まれない。(エピクテトス『語録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
エピクテトスは奴隷出身の哲学者だ。奴隷の子として生まれたが、哲学者ムソニウス・ルフスのもとでストイシズムを学ぶことを許され、晴れて自由の身になると哲学の学校を開いた。そこでは自虐的なジョークを飛ばしながら、わかりやすい講義を行い、多くの人の尊敬を集めたという。
エピクテトスは、不自由な環境に生まれたにもかかわらず、「意志を貫いて生きる人」は自由だと語った。
自分の意志を貫ける「強い心」を持てたなら、人は自分の理性を信じ、外部の評価や状況に振り回されることなく、自らの選んだ道を進んでいける。
一方で心が弱い人は、周囲の目を気にして立ち止まり、他人の意見に引きずられ、自分の意志を見失ってしまう。そんな選択の違いが重なっていけば、人生の軌道に大きな差が生まれることになる。
成功しても失敗しても、強固な意志で選んだ道であれば、人生に納得することができるのではないだろうか。
そんな強い心を持つための第一歩は、エピクテトスのように学ぶことだ。
自分の人生を、自分の意志で自由に歩んでいけるために、ストイシズムを学び、実践していきたい。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)